「嫌な気分よさようなら」という有名なセルフヘルプ本がある。
セルフヘルプ(自助)とは、「専門家の助けに頼らず、自分自身で(または同じ問題を抱える仲間同士で)問題を解決したり、困難な状況に対処する力を身につけたりすること」を意味します。
特に心理学や精神保健の分野では、以下の2つの意味で使われます。
- 個人による自己援助: 書籍やワークブックなどを使い、専門的な知識(認知行動療法など)に基づいて、自分の感情や思考、行動を自分で変えていく取り組み。
- 自助グループ(セルフヘルプ・グループ): アルコール依存症、特定の病気、悩みなど、共通の問題や体験を持つ人々が集まり、対等な立場で互いに支え合い、回復を目指す活動。
認知行動療法(CBT)の理論が書かれている本だ。
その中の方法の1つに、
チックタック法(TIC-TOC Technique)というものがある。
朝起きたくない時に使うのは悠長すぎるが、
大雨でもないのに漠然と、
- 仕事や学校に行きたくない
というを人間は持つことが多い。
そういう時に効果を発揮する方法である。
どうしてこの記事を書こうと思ったのかは、
上に書いたような気分や動きが
- LoLが下手な人の特徴と酷似していたから
である。
「上手な人はそんなこと思わないんだから、そりゃそうだろ」
というあなたの意見は適切だが、
少し聞いてみてほしい。
この記事はパッチ25.20の時に執筆されました。
チックタック法(TIC-TOC Technique)
チックタック法とは、
次のようなものだ。
状況 | TIC (課題遂行を妨げる認知) | TOC (課題に方向づけられた認知) |
仕事のプレゼン前 | (心の読みすぎ/予期)「どうせ緊張でどもって、上司や顧客にバカにされるに決まっている。準備しても無駄だ。」 | (事実確認/建設的思考)「緊張するのは自然なことだ。完璧でなくても、伝えたい要点を明確に話すことに集中しよう。うまくできなくても、それは次への改善点だ。」 |
新しい業務への挑戦 | (過度の一般化)「過去に失敗したから、新しいことも必ず失敗する。私には難しい仕事をする能力がない。」 | (挑戦と成長の意識)「これは新しい経験であり、学ぶチャンスだ。過去の失敗から教訓を得て、一歩ずつ進めばよい。失敗は私自身の価値を決めるものではない。」 |
友人からの連絡の遅れ | (結論の飛躍/心の読みすぎ)「メッセージの返信がないのは、私と縁を切りたいと思っているからだ。何か失礼なことを言ってしまったのかもしれない。」 | (代替案の検討)「相手は今忙しいのかもしれないし、単に通知に気づいていないだけかもしれない。急いで結論を出さず、相手からの連絡を待つか、少し時間を空けてから改めて送ってみよう。」 |
ダイエットの途中でつい食べすぎた | (全か無か思考)「ああ、もうダメだ。せっかく頑張ってきたのに、全部台無しだ。もう今日からやめてしまおう。」 | (部分的な成功の認識)「少し食べすぎてしまったが、これまでの努力が全て無になるわけではない。今日は中断してしまったが、明日からまた計画通りに戻せばよい。これは一時的な後退に過ぎない。」 |
職場の人間関係 | (べき思考/レッテル貼り)「あの人はいつも私に冷たい。私を嫌っているに違いない。私は人に好かれない人間だ。」 | (客観的な視点)「あの人はたしかに無愛想だが、他の人にも同じように接しているかもしれない。嫌われていると断定する根拠はない。仕事上の付き合いと割り切って、感情的にならずに接しよう。」 |
レポート・課題に取りかかる前 | (破局視/感情的決めつけ)「この課題は膨大すぎて無理だ。締め切りに間に合わないのは確実で、評価が下がって人生が終わる。」 | (行動の細分化)「まずはタスクを小さなステップに分けよう。最初の30分で参考文献を一つ見つけることから始めればよい。完璧でなくても、今できることから始めよう。」 |
人前で意見を求められた時 | (自己関連づけ)「自分の発言がおかしかったら、みんなが自分を笑うだろう。恥をかきたくない。」 | (自己中心性からの脱却)「みんなは私の発言にそこまで注目していない。もし間違っていても、それは意見の一つとして受け止められるだろう。批判を恐れず、率直に伝えることが大切だ。」 |
- TIC 行動を妨害する認知
- TOC 行動を方向づける認知
である。
では次にLoL編だ。
LoLチックタック
状況 | TIC (課題遂行を妨げる認知) | TOC (課題に方向づけられた認知) |
レーン戦でソロキルされた時 | (過度の一般化)「自分は対面(レーナー)よりずっと下手だ。このチャンピオンを選ぶべきじゃなかった。もうこのゲームは負けだ。」 | (事実確認/建設的思考)「キルされたのは痛いが、今はレベル差とゴールド差を把握することが先決だ。次はミニオンの状況やワードの位置に注意して、安全にCSを取ることに集中しよう。まだ集団戦(チームファイト)で挽回できる。」 |
ジャングルで0/3/0の時 | (心のフィルター)「ジャングラーの自分は味方に何も貢献できていない。レーンも育っているのに、全部自分のせいだ。」 | (状況の客観視)「とりあえず敵に狙われることはないので、素早くファームして20分のアタカン、25分のバロンに備えよう。」 |
集団戦でミスをして負けた時 | (全か無か思考)「完璧にADCを守れなかったから、サポートとして失格だ。自分の判断が全て間違いだった。」 | (部分的な成功の認識)「今回はポジショニングが少し悪かった。しかし、イニシエート自体は悪くなかったし、他のスキルは正しく使えた。次からは敵の主要なダメージ源を優先的にピール(守ること)を意識しよう。完璧な試合なんて存在しない。」 |
チームメイトが失敗した時 | (べき思考/感情的決めつけ)「あいつはなぜこんな簡単なミスをするんだ?もう真面目にやる気がない。あのヤスオがいるからこの試合は勝てない。」 | (建設的な対処)「チームメイトのミスに腹を立てても状況は改善しない。彼が次に活躍できるように、自分のCC(行動妨害)やスキルをどう使うか考えよう。ネガティブなチャットは控えて、冷静にプレイを続ける。」 |
負けが続いてレートが下がった時 | (レッテル貼り/破局視)「自分は永遠にこのランク帯から抜け出せない。これが自分の限界だ。もうランク戦(レート戦)を辞めるべきだ。」 | (休憩と分析)「連敗しているのは精神的に疲れているサインかもしれない。今日は一旦休憩して、明日また挑戦しよう。連敗した試合のリプレイを見て、どの判断が悪かったかを客観的に分析すれば、必ず次に活かせる。」 |
新しいチャンピオンを練習する時 | (結論の飛躍)「練習戦(ノーマル)で全然勝てない。このチャンピオンは自分には合っていない。時間を無駄にした。」 | (学習過程の肯定)「新しいチャンピオンを習得するには時間がかかる。負けている中でも、スキルコンボやダメージトレードの練習はできている。一試合ごとの結果ではなく、操作に慣れて上達しているプロセスに目を向けよう。」 |
プラチナ以上のトップやミッドレーナーならば、
操作もスムーズだし戦闘も上手である。
大まかな部分では何も問題がなく、
LoLの8割は覚えているだろう。
しかし実際にはそれぐらいのレベルのプレイヤーであっても、
ティルトするのは珍しくない。
実際の本に書いてあった対処方法
- みんなの前でやりたくないスピーチをするとする
- 寝る前に流暢にスピーチする姿を思い浮かべる
こういったことをするだけで、
スピーチに対して前向きになるそうだ。
言われてみれば誰でもわかるはずで、
というのも人間は
苦手なことは練習したり考えたりしないからだ。
仕組み的に練習しないから苦手なのだから、
これは当たり前のことを言っているように見えるが、
- 一般的な人間は嫌なことを考えずに忘れる
という習性がある。
抑圧ほどではないが、
一般的なLoLプレイヤーの姿と似ている。
毎日とりあえず試合をプレイしながらも、
ただ一度の練習もしない。
日常的にちょっと苦手なことは、ゲームが苦手な人がLoLでプラチナになるより遥かに難度が低いはずだ。
しかし忘れてしまうので対処もできない。
達人的アプローチ
ソロキューの話だ。
LoLの試合を大雑把に分けると、
次のフェイズに分かれている。
- 試合開始前
- ファーストリコールまで
- ファーストリコール後
注意力、あるいは集中力の配分をどうするかというと、
合計100としたら
- 試合開始前 50
- ファーストリコールまで 50
- ファーストリコール後 0
このようにプレイするのである。
もちろん初心者には難しいが、
あなたが名のあるプレイヤーならば、
LoLに限り難しいことではないはずだ。
インナーゲーム
要素 | 名称 | 特徴 | 役割(インナーゲームにおける問題点) |
セルフ1 (Self 1) | 「頭」「意識的な自己」 | 思考、批判、分析、指示、評価、判断を行う部分。 | 「小うるさい上司」のように、セルフ2に絶えず指示やダメ出しをし、不安や緊張を生み出し、本来の能力発揮を妨害する最大の敵となる。 |
セルフ2 (Self 2) | 「身体」「無意識的な自己」 | 潜在能力、本能、肉体の動きを司る部分。学習し、実行する能力を持っている。 | 「信頼できる実行者」だが、セルフ1の批判や指示に邪魔されると、動きが硬直したり、不自然になったりする。 |
物凄く有名なコーチング理論だ。
つまりファーストリコールが終わったら、
後はセルフ2に任せてプレイすればいい。
最初からセルフ1に任せると、
たいして練習もしてないリー・シンや、
最弱の呼び声が高いエズリアルを出してしまったりする。
本当に
- 「ピックしたくなる」
という表現が適切だろう。
仕事や学校から帰宅した後、
セルフ2に任せ続けた結果が我々の人生なので、
インナーゲームは自分が習熟した物事にしか使えないと思われる。
世の中(現実)は常に動き続けるので、意識したとしても有効な手(時間の使い方)を選ぶのは不可能に近い。
なので「成功か失敗かでいうと失敗に近い」と感じるのは当たり前なのである。
終わりに
- 記事の基盤はセルフヘルプ本『嫌な気分よ、さようなら』で、その理論的背景は認知行動療法(CBT)であること。
- セルフヘルプとは、専門家に頼らずに個人または仲間同士で、自分の問題解決能力を身につける自己援助を意味すること。
- チックタック法(TIC-TOC Technique)は、認知行動療法に基づき、課題遂行を妨げる認知(TIC)を、課題に方向づけられた建設的な認知(TOC)に置き換える方法であること。
- 記事の執筆動機は、仕事や学校に行きたくないといった漠然とした嫌な気分や、その際の行動パターンが、League of Legends(LoL)が上達しないプレイヤーの特徴と酷似していると感じたことである。
- チックタック法は、LoLの試合中のネガティブな状況(例:ソロキル、チームメイトのミス)においても、感情的な認知を具体的な建設的行動(TOC)へ転換するために応用できること。
- 『嫌な気分よ、さようなら』で推奨される対処法は、苦手な物事に対して寝る前に成功する姿をイメージするなど、意識的な練習や前向きな思考を取り入れることである。
- 一般的な人間には、嫌なことを考えずに忘れる(抑圧に近い)習性があり、それがLoLプレイヤーが「毎日プレイするだけで練習をしない」という行動につながり、上達を妨げる要因となっているという指摘があること。
- LoLにおける「達人的アプローチ」として、試合のフェイズごとに集中力の配分を極端に変える戦略が提示されていること(試合開始前:50、ファーストリコールまで:50、ファーストリコール後:0)。
- インナーゲーム理論におけるセルフ1(意識的な自己)は、批判や指示を通じて潜在能力(セルフ2)の発揮を妨害する「小うるさい上司」であること。
- インナーゲームの考え方をLoLに適用すると、ファーストリコール以降はセルフ2(無意識的な身体能力)にプレイを任せるべきである。しかし最初からセルフ2に任せすぎると、習熟していないチャンピオンを感情的にピックするなどの不適切な行動につながる危険性が考えられる。
この記事で見てきたように、私たちが日常生活やLoLの試合中に直面する「課題遂行を妨げる認知」(TIC)は、単なる気の持ちようではなく、認知行動療法(CBT)で扱われる具体的な思考の習慣です。
「どうせ負ける」「全部自分のせいだ」「もう終わりだ」――これらの感情的な自動思考は、意識という名の「セルフ1」が発する、試合の邪魔をするノイズにほかなりません。
熟練プレイヤーでさえティルト(感情的な動揺による判断力の低下)に陥るのは、操作技術(セルフ2)が優れていても、そのセルフ2を操る意識(セルフ1)が、ネガティブなTICに支配されてしまうからです。
鍵となるのは、「 TIC → TOC 」のプロセスをゲーム内で瞬時に行うことです。
- ソロキルされたとき、「負けだ」というTICを「次は安全にCSを取る」というTOCへ。
- 味方がミスしたとき、「あいつのせいだ」というTICを「次は自分がどうカバーするか」というTOCへ。
ファーストリコールを境にセルフ1の集中をゼロにするという達人的アプローチは、その後のプレイを、訓練された「セルフ2」によるスムーズな無意識的実行へと切り替えるための、究極のメンタルコントロール術と言えるでしょう。
LoLの上達とは、単なるチャンピオンの操作習熟だけでなく、「自分の内側のネガティブな思考を管理し、冷静に行動を方向づける」という、インナーゲームそのものなのです。現実世界で嫌なことを忘れる習性があるからこそ、私たちは意識的に、嫌な敗北体験や失敗を分析し、前向きなTOCとして記憶に上書きする「練習」を行う必要があるのです。
この記事が、あなたの次の試合でティルトを乗り越え、一段階上の冷静な判断力を手に入れるための一助となれば幸いです。
Good luck on the Rift! (サモナーズリフトでの幸運を祈ります!)
ゲームは娯楽なのが普通であり、
勝敗(プレイの結果)を気にしなければ、
セルフ2に任せてプレイしやすいはずだ。
しかし対面との戦い方や入れていくルーンなどは、
意図的に手順を組んでいかなければ、
失敗することのほうが多いというか、
ほぼ確実に失敗する。
そう考えると、
「学校や仕事に行きたくない」と考えるのも、
そんなに悪いことではないように思える。
例えば、なろう小説のように、
記憶を持ったまま生まれ変わるとしよう。
そうなった場合、
初めて小学校や中学校に行く時の準備は、
もう1年以上前から考えているのではないだろうか?
間違いなく、とても上手にできるはずだ。
ちなみに強い集中力は、
人間の精神を守る。
ハッキリ証明されているそうだ。
そう考えると練習の負荷は高いほど、
身体や精神に良いということになる(かもしれない)。