世界中の数百万のプレイヤーを魅了する「League of Legends (LoL)」だが、
多くのプレイヤーは成長の停滞や特有の「飽き」に直面することがある。
このLoLの「飽き」は、
コンテンツ消費が中心のソーシャルゲーム(ソシャゲ)の飽きとは異なり、
自己の成長限界や努力と成果の不一致といった、
より深い問題に根差している。
本稿では、このLoLならではの「飽き」の謎を解き明かすため、
「スケーリング」という概念に焦点を当てていく。
これは、
- プレイヤーのスキル習熟
- ゲームが提供する挑戦
- 報酬に対する知覚の変化
という三つの側面からプレイヤー経験を捉えるものである。
LoLとソシャゲを比較対象とし、
モチベーション心理学や精神物理学といった学術的な知見も援用しながら、
「飽き」が生じるメカニズムや、
プレイヤーがゲームに繋がり続ける(あるいは離れる)理由を考察していく。
特に、「中級者のプラトー」と呼ばれる成長の壁や、
「グラインドカルチャー」の弊害といった、
LoLコミュニティで議論されるテーマにも触れ、
質の高い練習方法や
長期的なモチベーション維持のための具体的な戦略についても提言を行う。
本稿が、LoLプレイヤー自身の経験を新たな視点で見つめ直し、
「飽き」を乗り越えるための一助となれば幸いである。
あまりに長くなったので、
記事を2つに分けることにした。
前半部分の今回の記事では、
主に
- 「どうして楽しかったゲームへのモチベーションが消えてしまうのか?」
について書く。
この記事はパッチ25.09の時に執筆されました。
I. はじめに:プレイヤーを悩ませる「飽き」という謎
League of Legends(LOL)は、
その奥深い戦略性と高い競技性から
世界中で熱狂的な支持を集めるオンラインゲームである。
しかしながら、多くのプレイヤーが、
特に上達の過程で、
ある種の停滞感や「飽き」を経験することは珍しくない。
この「飽き」は、
短期間で消費されやすいソーシャルゲーム(以下、ソシャゲ)の
それとは性質を異にする。
1. LOLプレイヤー特有の「飽き」とその背景
本稿では、LOLプレイヤーが直面するこの特有の「飽き」の問題を、
ソシャゲの特性と比較分析することで深く掘り下げる。
LOLにおける「飽き」は、多くの場合、
- スキルの上達が頭打ちになったと感じる「プラトー」現象
- あるいは努力に見合うだけの成長を実感できないフラストレーション
から生じる。
これに対し、ソシャゲにおける「飽き」は、
- コンテンツの反復性
- 新規コンテンツの不足
- 報酬システムへの慣れや飽和
に起因することが多い。
このように、「飽き」という現象一つをとっても、
その背景にあるプレイヤーの期待値や、
ゲームのコア・ループによって、
その様相は大きく異なる。
LOLにおける「飽き」は、
しばしば、
- スキルの危機
- 自己の限界への挑戦
といった実存的な問いを伴うのに対し、
ソシャゲのそれは
- コンテンツ消費のサイクル
からくる倦怠感と言えるかもしれない。
2. 分析の鍵となる概念:「スケーリング」
本稿では、この問題を分析するための鍵となる概念として
「スケーリング」を導入する。
ここで言う「スケーリング」とは、
単にモバイルゲーム市場における事業規模の拡大を指すのではなく、
より多角的な意味合いを持つ。
具体的には、
- プレイヤーのスキル・スケーリング(学習と習熟の道のり)
- ゲームコンテンツ/チャレンジ・スケーリング(ゲームが時間経過と共に新たな挑戦や複雑さをどのように提供するか)
- 報酬スケーリング(プレイヤーの進捗や報酬の反復的受領に伴い、報酬の知覚価値がどのように変化するか)
という三つの側面から捉える
この「スケーリング」という統一的な枠組みを用いることで、
LOLとソシャゲにおける異なる種類の「飽き」のメカニズムを解明し、
それぞれのゲームタイプにおけるモチベーション維持の戦略の違いを
浮き彫りにすることができる。
3. 本稿の目的と構成
本稿の目的は、
LOL(高度なスキルと内発的動機付けが重視されるMOBA)と、
典型的なソシャゲ
(しばしば外発的動機付けに依存し、より広範な層にアピールする)を
比較検討することにある。
この比較を通じて、
プレイヤーがどのように成長を認識し、
興味を維持するのかについての
貴重な洞察を得ることを目指す。
特に、LOLとソシャゲにおける「飽き」と「スケーリング」の明確な違いを、
モチベーション心理学や精神物理学の法則
(ヴェーバー・フェヒナーの法則など)の観点から考察し、
LOLのような競技性の高いゲームにおける
長期的なプレイヤーエンゲージメントを維持するための
効果的な戦略を提言することにある。
ヴェーバー・フェヒナーの法則を簡単に言うと、
「人間が何か(重さ、明るさ、音の大きさなど)の違いを感じ取ったり、その強さを感じたりするときの、感覚のルール」
みたいなものです。
この法則のポイントは2つあって、
- 「もとが大きいと、ちょっとの変化じゃ気づきにくい」
- 例えば、軽いものを持っているときは少し重さが変わっても「おっ」と気づきやすいけど、すごく重いものを持っているときは、同じくらい重さが変わっても気づきにくいですよね? もっとドカンと変わらないと違いが分かりません。
- 「刺激を強くしていっても、感じる『強さのアップ度』はだんだん鈍くなる」
- 例えば、部屋の電気を1つずつつけていくと、最初はどんどん明るく感じるけど、ある程度明るくなると、さらに1つ足しても「さっきよりちょっと明るくなったかな?」くらいにしか感じ方が変わらなくなります。
つまり、ヴェーバー・フェヒナーの法則は、**「私たちの感覚って、単純な物差しじゃなくて、元の状態や変化の割合で感じ方が変わるんだよ」**ということを教えてくれる法則です。
ソーシャルゲームでガチャ石を溜める時、0に近いほどゲーム内で貰える石の価値が高く感じる。
しかし5万や10万を超えてしまうと、何も感じなくなってしまう。
II. 「スケーリング」の理解とそのプレイヤー経験への影響
A. League of Legendsにおけるスケーリング:スキル獲得と習熟の旅路
League of Legends(LOL)におけるプレイヤーの成長、
すなわち「スケーリング」は、
直線的なものではなく、
複雑かつ多層的なプロセスである。
その道のりは、
初期の急速な進歩と、
それに続く困難な停滞期、
そして絶え間ない適応と学習の連続によって特徴づけられる。
1. 急峻な学習曲線と「中級者のプラトー」
LOLを始めたばかりのプレイヤーは、
基本的な操作やルールを覚えることで、
比較的短期間に目覚ましい進歩を実感できることが多い。
しかし、ある程度のレベルに達すると、
多くのプレイヤーが「中級者のプラトー」と呼ばれる壁に直面する。
この段階では、以前と同じように努力を重ねても、
スキルの向上が停滞しているように感じられ、
フラストレーションや「飽き」の大きな原因となる。
このプラトー現象には、
主に三つの要因が指摘されている。
- 知識の指数関数的爆発
- 不適切な学習習慣の自動化とアンラーニングの困難さ
- 模倣から創造への障壁
1 ゲームの理解が深まるにつれて、
習得すべき知識や戦略の量は指数関数的に増大する。
なので一つ一つの新たな知識が全体の習熟度に与える影響は、
相対的に小さく感じられるようになる。
2 初期に身につけた
- 「そこそこ通用する」
プレイスタイルや判断が、
無意識的な習慣となってしまい、
より高度で効率的なテクニックの習得を妨げることがある。
これらの習慣を「アンラーニング(学習棄却)」し、
新たなスキルを再構築するには多大な努力を要する。
3 初心者は他者のプレイを模倣することで急速に成長できるが、
中級者以降は、
状況に応じた独自の判断や
創造的な問題解決能力が求められるようになる。
この移行が困難な場合があるのだ。
この「中級者のプラトー」は、
単なるスキル上限ではなく、
むしろ心理的な戦場と言える。
努力に対するリターンの知覚的減少と、
さらなる進歩のために実際に必要とされる知識や
洗練されたスキルの指数関数的増加との間のミスマッチが、
このフラストレーションと「飽き」を増幅させる。
初期の急速な進歩は特定の学習速度への期待を生み出すが、
この速度が低下すると(たとえ学習が継続していても)、
知覚されるスキル向上の相対的変化は小さくなり、
プレイヤーの満足度にとっての「丁度可知差異(JND)」を下回る可能性がある。
丁度可知差異(ちょうどかちさい、JND: Just Noticeable Difference)とは、人間が2つの刺激の違いをかろうじて見分けられる最小の差のことです。
もっと簡単に言うと、
「あっ、これさっきとちょっと違う!」
と気づける、ほんのわずかな変化の量のことです。
例えば、
- 手に持っているおもりの重さが少し変わったときに、「重くなったな」または「軽くなったな」と感じられる一番小さな重さの差。
- 部屋の明るさがほんの少し変わったときに、「明るくなったかな?」または「暗くなったかな?」と認識できる最小の明るさの差。
- 聞こえている音の大きさがほんの少し変わったときに、「音が大きくなった(小さくなった)かも」と気づける最小の音量の差。
これらが丁度可知差異にあたります。
この「気づけるギリギリの差」は、元の刺激が強いか弱いかによっても変わってくることがあります。
これは、スキル獲得においても
- ヴェーバー・フェヒナーの法則
に通じるものがあるかもしれない。
2. スキル進行の性質:メカニカル、戦略的、知識ベース
LOLで求められるスキルは多岐にわたる。
- メカニカルスキル(例:ラストヒット、コンボ精度)
- 戦略的理解(例:最初に武器を買う理由、オブジェクト周りなど)
- 広範なゲーム知識(例:チャンピオンの能力、アイテムのシナジー、マッチアップ)
が複雑に絡み合っている。
特に高度なプレイにおいては、
「非自然的」あるいは
直感に反するようなスキルの習得が求められることがある。
例えば、相手の視点からゲームを捉え、
時には「何もしないこと」が最善の行動であると理解する、
といった高度な判断が必要となる。
このようなスキルの多層性は、
「スケーリング」が
単一の直線的な進歩ではないことを意味する。
プレイヤーはある領域(例:メカニカルスキル)では成長しても、
別の領域(例:マクロ判断)では停滞する可能性があり、
この不均一な進歩は、
的を絞った努力なしには診断も対処も難しい。
3. LOLのスケーリングに特有の課題
LOLのスケーリングの困難さを象徴するのが、
ジャングラーという役割である。
ジャングラーには
- マップ全体の状況把握
- 全レーンのマッチアップ理解
- ガンク
- オブジェクト周り
- テンポ維持
- 一周目での素早いフルクリア
といった複雑な意思決定や、
事前の入念な準備が求められる。
そのため
- レーナーに比べて直接的なフィードバックが得られにくい
という特性がある。
ジャングラーがレーナーに怒られるのは、
単純にジャングラーがヘタクソだからだ。
プラチナ4以上のプレイヤーは
トロール常連だとしても、
そこまで理不尽に人のせいにしたりはしない。
定期的なパッチ
さらに、定期的なパッチによるゲームバランスの変更は、
- チャンピオンの強弱、
- アイテムの有効性
- 時には基本的なゲームルール(例:レーンスワップへの対策)
さえも変化させる。
これは、プレイヤーが常に新たな環境に適応し、
学習し続ける必要があることを意味し、
スキルのスケーリングをさらに複雑にする。
一部のプレイヤーにとってはゲームを新鮮に保つ要因となる一方で、
苦労して習得した知識が陳腐化すると感じるプレイヤーにとっては、
疲労やフラストレーションの原因となり、
長期的なモチベーションに影響を与える可能性がある。
この絶え間ない変化は、
スキルスケーリングの
- 「ゴールポストが動き続ける」
状況を生み出し、
プレイヤーは永続的な学習と適応の状態に置かれる。
特定の知識の習得に多大な時間を費やしたプレイヤーにとって、
この変化は自身の「スケーリング」した進歩がリセットされたり、
価値が低下したりするように感じさせ、
変化のペースが速すぎるか恣意的に感じられる場合には
バーンアウトにつながる可能性がある。
特にフルクリアタイムを縮めすぎるのは良くない。
あなたがトップレベルのジャングラーだとしても、レベル4で3:30スカトルに間に合うくらいで留めておくのが望ましい。
B. ソーシャルゲームにおけるスケーリング:コンテンツの消費、マネタイズ、報酬構造
基本的にソーシャルゲームをプレイする時、
内発的動機づけは難しい。
腹ペコの猿が、ジャングルで見慣れないレバーを発見。
まさかと思い引いてみると、なんと天井から大好物のバナナが大量に降ってきた!
猿は大喜びで、その不思議なレバーに何度も飛びついた。
というわけで、
しばらく運営の目線になっていこう。
ソシャゲにおける「スケーリング」は、
LOLとは異なる様相を呈する。
プレイヤーのスキル向上よりも、
- コンテンツの供給量
- マネタイズ戦略
- プレイヤーを惹きつけ続けるための報酬設計
が中心となる。
1. モバイル/ソーシャルゲームにおける成長戦略とプレイヤー獲得
ソシャゲの初期成長は比較的容易であるが、
数百万規模のプレイヤーベースへとスケールさせることは困難であり、
- 初期ニッチからの拡大
- 競合の動向把握
- プレイヤーデータに基づいたゲームメカニクス
- マネタイズ戦略の適応
が不可欠となる。
スケールのためには、
- クリエイティブの反復
- 広告パートナー
- キャッシュフロー、
- マネタイズ
- 技術スタック
- 自動化
といった要素への注力が求められる。
2. ガチャメカニクスと間欠強化の心理学
多くのソシャゲ、
特にガチャ要素を持つゲームでは、
- 物語
- アートスタイル
- キャラクター
を通じてプレイヤーを惹きつけ、
ガチャメカニクスは
魅力的なアイテムやキャラクターを獲得するための手段として機能する。
プレイヤーは「当たり」を引いた際には強い喜びを感じ、
外れた際には失望するなど、
感情的な結びつきが強い。
また、コンプリート欲求を満たすための収集行動も、
エンゲージメントを高める重要な動機となる。
しかし、これらのメカニクスは、
その射幸性からプレイヤーを巧みに誘導し、
ギャンブルに類似した依存状態を引き起こす可能性も指摘されている。
この文脈で興味深いのが、
日本のプレイヤーの間で語られる「物欲センサー」という概念である。
これは、特定のアイテムやキャラクターを強く欲すればするほど、
それが手に入りにくくなるという感覚を指す。
この現象は、実際にはランダムな確率に基づいているガチャシステムに対する、
確証バイアスやコントロールの錯覚といった認知バイアスが作用した結果と解釈できる。
「物欲センサー」は、
ゲームデザインにおける「スケーリング」とは異なるが、
欲望の充足という点での「逆スケーリング」とも言えるこの知覚は、
一部のプレイヤーにとっては追求の動機となりエンゲージメントを高める一方で、
他のプレイヤーにとっては極度のフラストレーションやバーンアウトの原因となり得る。
「物欲センサー」はゲームなら笑い話で済むが、実際の生活で起きると大変なことになる。
幸せを追い求めてはいけない。
3. ヴェーバー・フェヒナーの法則:報酬への脱感作と「飽き」への連鎖
心理物理学におけるヴェーバー・フェヒナーの法則は、
刺激の知覚変化が初期刺激の強度に比例するというものであり、
刺激と知覚の関係は対数的であるとされる。
この法則は報酬の知覚にも適用され、
報酬の量が増加するにつれて、
さらなる増加を知覚する能力は低下する。
ソシャゲにおいて、
同程度の報酬が反復的に、
あるいは予測可能なスケジュールで提供されると、
プレイヤーはこれらの報酬に対して脱感作を起こしやすい。
初期には魅力的だった報酬も、
繰り返し受け取るうちにその刺激価が低下し、
同じ報酬では以前ほどの興奮や満足感を得られなくなる。
これは、次なる報酬に対する「丁度可知差異」が増加するためである。
ソシャゲでは、
レベルアップに必要な経験値が増加するような
「エスカレートする報酬スケジュール」
が一般的である。
初期には頻繁な報酬で習慣化を促し、
後半は報酬間隔を広げる。
しかし、次の報酬を得るための努力が過大に感じられるようになると、
このシステムは「グラインド(苦役)」と化し、
飽きを生じさせる。
また、日々のログインボーナスや期間限定イベントによる
FOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの恐れ)の喚起は、
エンゲージメント維持に利用されるが、
楽しみよりも義務感を助長する可能性もある。
※ 私は期間限定イベントとかを1度逃すと、
もうやりたくなくなるタイプだ。
LoLは外的報酬がゼロに近いので続けているのかもしれない。
ソシャゲの「スケーリング」は、
プレイヤーを惹きつけるのに十分な報酬(ドーパミンループを活用)を提供しつつ、
ヴェーバー・フェヒナーの法則によって予測される
急速な脱感作を避けられるよう、
挑戦や要求を絶妙にエスカレートさせる
というデリケートなバランスの上に成り立っている。
この固有の緊張関係は、
開発者が常にこの
脱感作曲線と戦っていることを意味する。
4. ソーシャルゲームにおけるプレイヤー離脱とバーンアウト
ソシャゲにおけるプレイヤーのバーンアウトは、
新規コンテンツの提供が滞ったり、
既存コンテンツが陳腐化したり、
あるいは日々のタスクが
単調な繰り返しになったりした場合に発生しやすい。
また、ゲームデザインやマネタイズ戦略が不適切であると、
プレイヤーの離脱(チャーン)を引き起こす可能性がある。
ソシャゲにおける外発的動機付けと
注意深く調整された報酬スケジュールへの依存は、
報酬の新規性が失われたり、
知覚される努力対報酬比が不利になったりすると、
モチベーション構造が本質的により脆弱になり、
「飽き」が生じやすいことを意味する。
これは、より深い内発的な動機付けのフックを持つゲームと比較して顕著である。
III. モチベーションの心理学:プレイヤーが留まる理由、去る理由
プレイヤーがゲームに没頭し続けるか、
あるいは興味を失って離れてしまうかを決定づけるのは、
複雑な心理的要因の絡み合いである。
特に、
- 内発的動機付けと外発的動機付けのバランス
- 目標設定と進捗の知覚
- 時として有害となり得る「生産性」重視のプレイスタイル
が、モチベーションの持続に深く関わっている。
A. ゲームにおける内発的動機付けと外発的動機付け
モチベーションは、
大きく内発的動機付けと外発的動機付けに分類される。
内発的動機付けとは、
活動そのものから得られる楽しさ、
興味、個人的成長といった
内的な要因によって行動が促される状態を指す。
これは持続的なエンゲージメントにつながりやすい。
一方、外発的動機付けは、
金銭、
アイテム、
ランキングといった外的な報酬や、
罰を避けるといった要因によって行動が促される状態である。
外発的動機付けは短期的な効果が期待できるものの、
内発的動機付けを損なうリスクや、
報酬に慣れてしまうことで効果が薄れる可能性が指摘されている。
LOLの主な魅力は、
- スキルの習熟
- 他者との競争
- 戦略的な奥深さ
- 有能感
- 自律性
といった内発的要因にあると言える。
プレイヤーは、
- 自己の成長
- 困難の克服
- スキルの発揮
といった欲求に突き動かされることが多い。
しかしながら、
LOLにおけるランキングシステムは
強力な外発的動機付けとして作用する。
「ランク不安」(ランクを維持・向上させることへのプレッシャー)や、
ランクを上げることへの渇望が、
時に内発的な楽しみを覆い隠し、
ゲームが「仕事」のように感じられるようになり、
進捗が停滞した場合にはバーンアウトを引き起こす可能性がある。
これは、内発的動機付けがスキル習熟のプラトー(II.A章参照)によって減退し、
同時に外発的動機付け(ランク)も停滞した場合、
プレイ全体の意欲が急落する可能性を示唆している。
外的な報酬が、
元々内発的な興味によって動機づけられていた活動に対する内発的動機を低下させる
「アンダーマイニング効果」も、
ランクへの過度な集中が楽しみを損なう場合に作用している可能性がある。
対照的に、ソシャゲは
外発的要因に大きく依存する傾向がある。
- デイリーログインボーナス
- リーダーボード
- 期間限定イベント
- アイテム収集
といったメカニクスは、
外発的動機付けを巧みに利用している。
これらのシステムは
強力なエンゲージメントループを生み出すことができるが、
報酬が陳腐化したり、
その知覚価値が低下したりすると、
モチベーションの低下につながりやすい。
ソシャゲはしばしば、
達成感を模倣するような外的な報酬システム(例:「アチーブメント」)
を通じて内発的動機付けを「シミュレート」しようと試みる。
しかし、これらのシステムが
真の有能感や自律性と十分に結びついていない場合、
表面的であり続け、
その動機付けの力は急速に薄れてしまう。
これらの「アチーブメント」が、
- アイテム収集
- 努力に見合わない
- 簡単すぎる
- 意味のあるゲームプレイから切り離されている
と感じられる場合、
有能さという根源的な心理的欲求(PENSモデル)を満たさず、
結果として持続的な内発的動機付けを育むことに失敗する。
PENSモデル(Player Experience of Need Satisfaction model)というのは、特にゲームをプレイする人が「楽しい!」と感じたり、「もっとこのゲームをやりたい!」と思うのはなぜか、ということを説明する心理学の考え方の一つです。
このモデルでは、人が心の中で基本的に求めている**3つの大切な「気持ち(欲求)」**がゲーム体験を通じて満たされることが、楽しさや満足感につながると考えます。
その3つの大切な気持ちとは:
- 有能感(Competence):
- 「できた!」「うまくなった!」「難しいことをクリアできた!」と感じたい気持ち。
- ゲームの中で新しいスキルを覚えたり、難しいステージを攻略したり、目標を達成したりすることで、この気持ちが満たされます。
- 自律性(Autonomy):
- 「自分で選んで行動したい!」「誰かにやらされているんじゃなくて、自分の意志でやりたい!」と感じたい気持ち。
- ゲームの中でどんなキャラクターを使うか、どんな戦略をとるか、次に何をするかなどを自分で決められると、この気持ちが満たされます。
- 関係性(Relatedness):
- 「誰かとつながっていたい!」「仲間と良い関係を築きたい!」「受け入れられたい!」と感じたい気持ち。
- 他のプレイヤーと協力して遊んだり、チームの一員として認められたり、ゲーム内のキャラクターと心を通わせたりすることで、この気持ちが満たされます。
PENSモデルによると、ゲームのデザインがこれらの「有能感」「自律性」「関係性」という3つの心理的欲求をうまく満たせるように作られていると、プレイヤーはより深い満足感や楽しさを感じ、そのゲームに夢中になりやすい、ということです。
B. プレイヤーの目標と進捗の知覚
モチベーションは、
明確な目標を持ち、
それに向かって進んでいるという感覚と密接に関連している。
LOLにおいて、
中級者のプラトーでスキルの進捗(スケーリング)が停滞すると、
プレイヤーは達成可能な目標を見失い、
結果としてモチベーションが低下することがある。
目標と進捗の粒度と可視性は、
LOLとソシャゲで大きく異なる。
LOLにおけるスキルの進歩は、
しばしば曖昧で短期的には測定が難しく、
「知覚される進捗」を実感しにくい。
一方、ソシャゲは、
日々のクエスト達成やイベント目標など、
非常に明確で短期的な目標を提示し、
たとえ表面的であっても頻繁な達成感を提供する。
ソシャゲにおけるこの絶え間ない「進捗」のフィードバックは、
たとえそれが単にバーが満たされるだけであっても、
PERMAモデルの「達成(Accomplishment)」の要素を、
LOLのしばしば遅く微妙なスキル向上よりも即座に満たす。
ERMAモデル(パーマモデル)とは、私たちがより幸せで充実した人生を送るために大切な、5つの要素を示したものです。ポジティブ心理学という分野で有名なマーティン・セリグマン博士が提唱しました。
「PERMA」は、その5つの大切な要素の頭文字をとったものです。
- P – Positive Emotion(ポジティブ感情)
- 「やったー!」「楽しい!」「ありがとう!」みたいな、うれしい、楽しい、感謝する、希望を持つといった、良い気分のこと。
- 日々の生活の中で、こうした前向きな感情をたくさん味わうことが大切です。
- E – Engagement(エンゲージメント)
- 「時間を忘れるくらい何かに夢中になること」
- 趣味や仕事、勉強などで、完全に没頭して「フロー状態」と呼ばれるような集中した状態になることです。
- R – Relationships(関係性)
- 「家族、友達、仲間など、大切な人たちとの良いつながり」
- 人との温かい人間関係は、私たちを支え、喜びを与えてくれます。
- M – Meaning(意味・意義)
- 「自分の人生やしていることが、何か大きな目的や価値につながっていると感じること」
- 自分のためだけでなく、誰かのため、社会のためなど、より大きなものに貢献している感覚です。
- A – Accomplishment / Achievement(達成・達成感)
- 「目標を立てて、それをやり遂げること、そして『やったぞ!』と感じること」
- 大小さまざまな目標をクリアすることで得られる満足感や自信です。
簡単に言うと、PERMAモデルは、**「良い気分でいて、何かに夢中になり、良い人間関係を持ち、人生に意味を感じ、そして何かを成し遂げること」**が、私たちの幸福感を高めてくれるよ、という考え方です。
これらの5つの要素をバランスよく高めていくことで、より豊かで幸せな人生に近づけると言われています。
LOLプレイヤーが抱く目標(例:「ダイヤモンドランクに到達する」)と、
現状認識している進捗速度との間にミスマッチが生じると、
特にそのギャップを埋めるための手段や知識(例:効果的な練習方法)が不足している場合、
「飽き」やフラストレーションの大きな原因となり得る。
これはコンテンツの欠如からくる飽きではなく、
努力の無益さからくる飽きである。
C. LOLにおける「生産性」重視と「グラインドカルチャー」の弊害
LOLコミュニティの一部には、
「グラインドカルチャー」、
すなわち
- 可能な限り多くのゲームをプレイすることが上達への道である
という考え方が見られる。
※ グラインド=すり潰す=苦役
「アンダース・エリクソン読んだことないのかよ」
と一瞬思った人もいるかもしれないが、
実は日本の10代には、
あらゆるジャンルで蔓延した考えである。
このような量に偏重したアプローチは、
パフォーマンス向上にとって必ずしも最適ではなく、
プレイヤーの健康や
ウェルビーイングに悪影響を及ぼすだろう。
LOLプレイヤーのモチベーションプロファイルを分析した研究では、
「無気力型」や「外的報酬型」といったプロファイルが、
楽しみの欠如や否定的な感情の増大と関連しており、
潜在的に有害なゲームエンゲージメントを示していることが報告されている。
これは、質の高い集中的な練習がより効果的である
という考え方とは対照的である。
LOLにおける「グラインドカルチャー」は、
努力の誤った適用と見なすことができる。
一般的なプレイヤーは、
真の改善に必要な集中的で内省的な練習を怠り、
単に量をこなすことでスキルのスケーリングを強制しようとする。
これはリターンの逓減(ていげん)を招き、
停滞感を悪化させる。
「生産性」は、獲得したスキルではなくプレイ時間で測られるようになり、
結果が伴わない場合には
モチベーションを著しく低下させる可能性がある。
「グラインドカルチャー」の蔓延は、
プロプレイヤーの長時間の練習風景が可視化される一方で、
彼らの構造化されたトレーニング、
VODレビュー、
コーチングといった質的な側面が十分に認識されていないことに
一部起因するかもしれない。
アマチュアプレイヤーは、
プロの練習時間の長さ(表面的な側面)だけを模倣し、
その時間を効果的なものにしている本質(練習の質)を見落としてしまう可能性がある。
これは練習に関するカーゴ・カルト的な考え方を生み出し、
非効率的な努力とバーンアウトにつながる。
毎日ゲームを12時間プレイするのは、時間さえあれば誰でもできてしまう。
終わり
- League of Legends (LoL) のプレイヤーは、上達の過程でスキルの停滞感や特有の「飽き」に直面することがあります。
- LoLにおける「飽き」は、自己の成長限界への挑戦や努力と成果の不一致といった、より実存的な問いから生じることが多いです。
- 一方、ソーシャルゲーム(ソシャゲ)における「飽き」は、コンテンツの反復性や新規コンテンツの不足、報酬への慣れに起因することが多いです。
- 本稿では、プレイヤーのスキル習熟、ゲームの挑戦の進化、報酬の知覚変化という三つの側面から捉える「スケーリング」という概念を分析の鍵として用いています。
- LoLでは、急峻な学習曲線の後、「中級者のプラトー」と呼ばれるスキル向上の停滞期に多くのプレイヤーが直面します。
- LoLのスキル向上の停滞は、知識の指数関数的増大、不適切な学習習慣の自動化、模倣から創造への移行の困難さといった要因によって引き起こされます。
- ソシャゲでは、ガチャメカニクスや間欠強化の心理学がプレイヤーのエンゲージメントに強く影響し、ヴェーバー・フェヒナーの法則に見られる報酬への脱感作が「飽き」につながることがあります。
- ゲームを続けるモチベーションには、活動そのものの楽しさや個人的成長を求める「内発的動機付け」と、報酬や評価を求める「外発的動機付け」があります。
- LoLは内発的動機付けが主ですが、ランキングシステムは強力な外発的動機付けとして働き、時にゲームが「仕事」のように感じられる原因となります。
- LoLコミュニティに見られる「グラインドカルチャー」は、量に偏重した非効率的な練習につながり、プレイヤーの健康やモチベーションに悪影響を与える可能性があります。
近年グラインド文化は深刻な問題となってるそうだ。
10代に多く見られるというのは、
子どもは世界が狭いし、
社会関係資本(友達関係資本)が少ない。
体力や時間など、
使えるエネルギーが多いのもあるかもしれない。
※ そして、お金が使えない。
なので安直に「頑張る」という戦略を取りがちなのだろう。
私も10代の時は、
グラインド的な生き方だった記憶がある。
前半はこれで終わりだ。
後半は
- 「モチベーションをどうやって維持するのか?」
というテーマで書いていきたい。